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「さうですか。それは――」
「私共は、これも(練吉を指して)この町の医者です。実は火事だといふから駆けつけたので。聞けば、演習だといふことですが、それなら前もつて町役場なり駐在所なりへ通知があるべき筈だと思ひますが、それはなさつたでせうな」
「はあ」
練吉は今更のやうに、あらためて房一の様子を、その新調の自転車や医者らしい鞄などに目をやつた。すると、それらは今新しく練吉の前に彼の持物と同じものを感じさせ、更に、今まで耳にしていたものの、つひぞ気にもとめずにいた医師高間房一といふ人物がそこに忽然と姿を現しているのをいやでも見なければならぬと感じさせた。それは何故かどこかで練吉の自負心を傷つけ気を苛立たせるものだつた。
徳次は房一が顔を洗ふ間傍に立つて眺めていた。それからふいに訊いた。
「あら、ほんとうに沢山とれたんですね」
「あん」
小谷は疳高い声で云つた。
これはちっとも可笑おかしくない!彼ら二人は実にいい夫婦なのである。
「大石練吉です」
房一は目を上げて何か訊きたさうにした。それを押へるやうに、
と、おづおづ答へた。
「さうかの。だが、さう云うても――」